
この記事を書いた人
ヒラリーさん webデザイナー
12歳と7歳の息子を育てています。時短勤務のワーキングマザーです。全力で迷走するリアルな胸のうちをつづります。ちなみに魔女ではありません。
2017年9月26日
第2子の出産体験(早期胎盤剥離) ~迷宮レベル19~
異変に気付いたのは、金曜日の夕方。
長男の保育所のお迎えのために、重い身体でのそのそと歩いていると、子宮とともに内臓まで出てきてしまうんじゃないかと錯覚するような痛みと圧力に襲われました。
臨月に入っていたけど、まだ出産予定日ではなかったので、若干焦りました。痛みは繰り返し起こっています。
「このまま剥がれてほんとに内臓がでてくるんじゃないかな!?」なんて思いながら息子の手をひいて急いで家に帰りました。仕事で遅くなるという夫にメールを一通。
「なんか変だから早く帰ってきてほしい!」
それからソファーに倒れこみながら、痛みの時間を計測。すると、2~11分の不定期な痛みであることが判明。なんだ、陣痛ではないのかとちょっと安心。本当の陣痛だったら、これが10分間隔と正確に痛みが襲ってくることを前回の妊娠で知っていたからです。
これが人によっては本陣痛の前に起こるという前駆(ぜんく)陣痛ってやつなのかな~?と考えながら、息子に夕飯を食べさせ早めに一緒にお風呂にはいることにしました。
その間も痛かったけど、本陣痛じゃないと思っただけで、少し気が楽でした。
夫が帰ってくる頃には、ご飯も食べてお風呂に入ってスッキリとした顔でテレビを見ているわたしと息子。
「えーーーーーー!元気そうやん!!」と夫は拍子抜け。
「まあ、こういうこともあるんじゃない (ノ≧?≦)テヘペロ」
と夫にお風呂をすすめ、ご飯の準備。
しかし、皆が寝付いた23時ごろになると大きな不安が襲ってきました。夕方から続くこの痛みの原因って、ほんとに前駆陣痛なのかな?もし違う原因だったら?
もう診察時間も過ぎていたので、産院へ電話をすることにすごくハードルが高くなっていましたが、思い切って電話をして前駆陣痛か尋ねてみました。
すると、 「前駆陣痛でも本陣痛でもどっちでもいいからとりあえず入院準備をして来てください。」 という返事。
正直慌てました。
眠っている息子をパジャマのまま毛布にくるんで抱っこして、入院の準備をしていたスーツケースを夫に運んでもらいました。上の子がいるときの夜中の受診って結構大変!
「ぼくはこのまま寝ていたい!」とぎゃーぎゃー泣き始めましたが、全部スルーして車で産院へレッツラゴー!!
「ぼく、靴履いてないや~ん」と再び泣き始めました。急いで抱えてきたので、すっかり忘れていました。
靴がないかっこ悪い状態で車の外には出たくないと、駄々をこねています。
ママはそれどころじゃないんですよ、息子ちゃん。
嫌がって暴れる息子を担いで産院の裏口から診察室に行きました。このまま今夜は様子をみるということで、入院服に着替え、いろんな機械につながれたまま分娩台の上で一夜を明かすことになりました。こんなところではドキドキして眠れません...。息子と夫は一旦家に帰ることになりました。
「これってほんとに陣痛なんですか?」と助産師さんに尋ねると、「経産婦さんのなんか変っていう勘は外れない。今夜は少し様子を見ましょう」と言われました。
一体どうなってしまうんだろう、前回は本陣痛なのにやっぱり帰ると言って駄々をこねたっけ...と思い出しながら、さっきの息子の姿がよぎりました。こんなところが似るなんて...。
明け方6時ごろ助産師さんが来て、「子宮口が4cm開いているけど、まだ陣痛は微弱なのでこのまま促進剤を使って産んでもいいし、やり残したことがあるなら帰って本陣痛が来るまで待ってもいいし、どうしますか?」と聞かれました。
「ちなみに、本陣痛は今日かもしれないし、一週間後かもしれないし、人によって違います。」と言う。こっちに選択権があると思っていなかったので、とても迷いました。お風呂にも入ってるし、やり残した家事なんて多すぎてやりたくないし(笑)
土曜日に生まれたら、パパも子どもの出産に立ち会えるし、このまま生まれたほうが都合がいいのかな?なんて思い、しばらく考えましたがやっと腹をくくり「今日、産みます。」と宣言しました。
そして、宣言したのもつかの間、謎の出血。
すると周囲の顔色が変わり、入れ替わり立ち替わり助産師さんや先生が診察に来ました。これって俗にいう「おしるし」の出血じゃないの?と思っていましたが、この段階での出血はありえない状態だと言われました。
よくわかっていないうちに、車椅子で外来診察のエコー検査に連れて行かれ、再び診察室へ。先生から一言、「緊急事態です。ただちに帝王切開にて手術します。」
急展開についていけず、言われるがまま素っ裸になり、シャワーキャップみたいな帽子をかぶり、看護婦さんに剃毛され、手術台の上に寝ころびました。
すっぽんぽんにシャワーキャップってどんな罰ゲームやねん!と思っているところに、夫が最後の挨拶に立ち寄りました。
普通、「頑張ってな。」とか言う場面なのに、「えーーーーーー?服きーへんの?ぷぷぷ」と笑っています。普段なら文句をいうのに、頭の中が真っ白だったので、謎のピースサインだけしました。
「アイルビーバック!」と親指立てるほうがよかったかな?
なんて、どっちでもいいことを考えているうちに、やっとカバーがかけられ、先生が腰に麻酔をして、お腹に消毒綿をちょんちょんとつけました。
「これは冷たいですか?」と聞かれたので、「はい、冷たいです。」と答えるとお腹に数か所麻酔注射。
「これはどうですか?」と再び聞かれたので「冷たいです。」と答えると、「それはまずい...。」そう言うと、顔に何かのマスクがあてられました。
わたしの中ではさっきの先生とのやりとりをまだ続けている感覚でしたが、実際には全身麻酔に切り替えられ、すでに意識はなかったようです。
全身麻酔で意識はないはずなのに、先生やまわりの声は聞こえています。目をつぶっているのに、目の前の景色が暗くなったり明るくなったり、急にジェットコースターみたいにどんどんスピードがでてきて、扉が次々と開き、花畑や、温かい肌色の積み木、押し寄せる細胞の天井。
プロジェクションマッピングをみているように場面が次々に変わっていくことに気づいてから、「あ、もしかしてこれって死ぬんじゃないか?」と気づき、急に怖くなりました。
4歳の息子を残して死ねないし、お腹の中の子どもを一目みたい...まだ死ねない、死にたくない、生きたい、生きたい...と思っていると、「何か夢でも見ているのかな?」という先生の声が上から聞こえてきました。
そのとき、誰かが左手を握ってくれたのがわかり、麻酔が効いているのにその手を握り返しました。
それから急に麻酔が覚め、手術台の電気が視界に飛び込みました。
やばい!ここで起きたらお腹を開いてる途中なのに、痛みでさすがに死ぬんじゃないか?と思い、念仏のように麻酔よ~きけ~と目をぎゅっとつぶりました。すると、再びあの世界に戻っていきジェットコースターで光の世界に出ました。
いや、光の世界ってあかんやん!
そう思ったときに、上のほうからほぎゃ~!ほぎゃー!という音。生と死か。。。
いやいや、あの声はうちの赤ちゃんでは!?生まれたの?
そう思っているところで、再び手術台の電球の光が目に飛び込み、思いっきりお腹をザクザク縫われている感覚。先生が糸で皮膚を縫って、手を上に糸をひっぱりあげているイメージが浮かびました。
なんて恐ろしい!むしろ、麻酔ってすばらしい。
次に意識が戻ったのは、大勢の女の人の声。
そっちを持って~、いっせーのーででいくよ~と協力しあう掛け声です。身体がふっと浮いて、ベッドに寝かされました。ああ、わたしを運んでいたのね。ガリバーやな(笑)
そして、再び意識が戻ったのは、暗い部屋の中。全く動かない身体。
生きてた、生きてた!動けなくても、小躍りしました。
時計を見ると、もう18時でした。
旦那さんが面会に来たということで、起こされました。
そういえば、わたしってまだ自分の赤ちゃんを見ていない。手術着の夫に恐る恐る聞いてみました。
「もう会った?」という問いかけに、「手術室にはいって、びっくりするくらいすぐに生まれてきたよ。元気だよ。」といってスマホで撮影した写真を見せてくれました。
長男は、普通分娩で産んだ後、カンガルーケアで1時間ほど胸の上で抱いていたので、赤ちゃんを産んだ感覚と感情はあったけど、二人目は全く他人事。
「へぇ~、こんな顔なんや~。」と画像を見ながら確認するという変な感じでした。
帝王切開のお母さんが、二人目を自然分娩で産みたいという気持ちもわかる気がしました。
18時半になって、ようやく赤ちゃんと初対面。元気なかわいい男の子でした。
つらいのはその晩のこと。
麻酔が切れたため、帝王切開の傷口の痛みと、後陣痛の内臓を締めつけるような痛みが同時に襲ってきました。寝返りもできない。痛みで足も動かせない。尿を排泄する管も痛い。
看護婦さんが枕元に置いてくれた冷たいお茶をとろうと手を伸ばすが、激痛で涙を流しながらお茶を飲みました。
出産当日は大量の汗をかき、服がびしょ濡れで気持ち悪いということを前回体験していたので、汗ふきシートを用意していたのでそれを手元に置いてもらい、気持ちの悪い時に首筋や腕の汗を拭いたため、随分マシになりました。
出産当日は注射での痛み止めしかできないということで、4~5時間ごとにうってもらいましたが、はじめの一時間しか効かず、あとは泣いて過ごしました。
二日目になると、飲み薬の痛み止めが使えたので、驚くほど痛みがマシになり、トイレに一人で行けるまでに回復しました。
帝王切開の場合、トイレに行く以外は基本部屋から出られません。出る気も起りません。二日目の朝、ようやく朝食が食べられるということで、全粥をだしてもらいました。気づけば、まるまる一日の絶食。
ほんのりあたたかいお粥さんは、疲れた体に染み入りました。
朝食後、赤ちゃんを部屋まで連れてきてもらい、初めての授乳。全くお乳がでません。またここからはじめるんだな~と、出ないお乳を一生懸命に吸う息子を見ながら、赤ちゃん独特のミルクみたいな匂いをくんくん嗅ぎ、頬ずりをすることでやっと自分が産んだということを実感するのでした。
今回の帝王切開は、早期胎盤剥離が原因でした。胎盤は出産後子宮から剥がれて出てくるのが普通ですが、出産前に子宮から何らかの原因で剥がれてしまうと、胎児に酸素の供給がストップされ、時間がたつごとにその死亡率は高くなります。
胎盤は一旦剥がれるとあとはどんどん剥がれる一方で、出血多量で母体も危険だったと知りヒヤリとしました。
夕方から"なんか変"という感覚は、赤ちゃんが必死に教えてくれているサインだったのかもしれません。
そして、助産師さんにこっそり「わたし、臨死体験をしたかもしれない。」と打ち明けると、「ああ、たまにちょっと違う世界に行ってきました~っていわれる妊婦さんがいますよ~。全身麻酔といってもそんなに強い麻酔ではないから、夢と現実を交互に、間の世界にも~」と、笑顔で答える助産師さんの顔が、世にも奇妙な物語のタモリさんに見え、あの音楽が聞こえてくるような妙な感覚に襲われました。
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